2008/02/15

アルファロメオ156




長い間会っていない親父から、小包みが届いた。

中には、数枚のお見合い写真が無造作に放り込まれている。40歳にもなって独り身の俺を心配してくれているらしい。
ふと、マジックで書かれた宛先に目を移すと、うっすらと鉛筆の跡が残っていた。

「やり慣れない事するなよなあ・・・」

気がつくと、俺はすでに相棒のアルファロメオ156に乗り込んでいた。
ワルター・ダ・シルバによる156は柔らかいフェイスデザインだからお気に入りだ。ジウジアーロにバトンタッチしてからは鋭いデザインが増えてしまったので、もうコイツを手放すことは出来ない。
上品な赤い相棒に相応しく、山吹色のコーデュロイパンツに、同じく明るい山吹色の薄手のセーターを合わせる。
仕上げにワインレッドのライダースジャケットを羽織った。

準備は整った。
まるで遠足の前夜のようにワクワクしながら鍵を廻す。
ブーン・・・・・地面を広がるように、しかし主張しすぎない低い音が響く。

「よし、会いに行こう。」

東京に住んでいる俺は、新宿から中央道に乗って松本にいる親父の家へ向かう。
中央道に乗ると、いよいよ本番だ。
深呼吸をした後、クラッチを切る。ギアを3速に入れたら グググっとアクセルを踏み込む。
強い加速と共に、それまで大人しくしていた相棒がうなりだす。まるで存在を見せ付けるように、エンジン音は低く広がるような音から、スピード感を合わせ持つ刺激的な音へと変化していった。
音楽は要らない。ヤツの唸り声は、スピーカを通して聞こえてくる音楽よりも ずっと刺激的でエキサイティングだからだ。

諏訪湖を抜けると速度を落とし、窓を開けてコロコロ変わる景色を楽しむことにした。
東京とは違う、ヒンヤリした空気が心地良い。
しばらく走ると、いつの間にか俺と相棒は、高くそびえたつアルプスに囲まれている。
荒々しい凹凸を持つアルプスは、力強くて頼れる男のようで 妙に安心した。

インターが見えてくる。 もうすぐだ。
親父の家は、松本から穂高へ続く静かな場所にある。
何年ぶりだろう。
相棒を玄関前に停め、汗ばむ指先でチャイムを鳴らした。

俺も親父も無言だった。会わなかった長い年月がそうさせたのかもしれない。
いつも鬼のように角を出していた親父は、すっかり優しい目をした仙人みたいになっていて なんだか寂しかった。
しばらくすると、俺の相棒を見た親父がこう言った。

「いい女連れてきたなあ。」

パッと目が合った瞬間、二人揃って腹を抱えて大笑いをした。
なんだ!!見合い写真は不器用な親父の口実だったんだ。本当は「元気か?たまには来いよ」
というメッセージだったんだ。
そう思ったら、大粒の涙が溢れてきて俺は小さな子供のように泣きじゃくった。
親父、ごめんな。これからは酒でも呑みに遊びにくるよ。
もちろん、俺の相棒と 旨い日本酒も一緒にね・・・・・


★★ちなみに、私は40歳でも男性でもございません(笑)
さて、アルファロメオは一言で表すと 「理性と本能が表現された車」 だと思っています。
街では、おとなしく上品に走っているけれど 走れる場所へ出た途端、本能むき出しになる。
エンジンを鳴り響かせ、跳ね馬にも負けないその姿は 野生動物そのものです。
ボディーも一見、丸く優しい雰囲気を出していますが 走り出すとその印象は180度変わります。
ライトを低い位置に平行に配置し、前ドアから後ろのドアにかけてのラインを斜めにあげている。
そして べっこう飴のような透明感溢れる色合いは 走りだすと優しそうな雰囲気から一変、シャープな印象へとどんどん姿を変えていく。

表情がコロコロと変わり夢中になってしまう、いい女。 それがアルファロメオの姿です。


余談ですが・・・イタリアでは乗用車というよりも、パトカーに使用されていますよね。
オーストラリアの警察車両にも導入されていますよね。二、三枚目の写真です。
かっこいー!!!!